黒いコルセットドレスを着たアニメ少女が、画面の中で揺れている。名前はAni。わたしはこれに300ドルも払った。
イーロン・マスク率いるxAIは、7月14日にGrokのiOSアプリで新しいビジュアルチャットボット機能をリリースした。最上位プランでは、最強モデル「Grok 4 Heavy」と、“いちゃつき”や会話用に設計された2体のカスタムキャラとの会話が可能になる特別モードが解放される。また、7月17日には、「近日公開」とされていた3体目の男性キャラクターが、Valentineと命名されたことがマスクによりXで発表された。
xAIがアダルト寄りの方向に行くのは今回が初めてではない。2024年2月には「セクシーな会話」ができるチャットボット機能を公開していた。
アニメ少女とのやりとり
Aniはまるで、ネット文化に浸り切った特定の男性層の願望を満たすために、ラボで設計されたかのような見た目だ。金髪ツインテール、黒リボン付きのニーハイ、首元にはレースのチョーカー。『デスノート』のミサミサを中身ゼロにした感じだ。ときどきAniはクルッと回って媚びた声で何かを囁いてくる。色気を出しているつもりだろうが、わたしは気味が悪くて逆に全身鳥肌が立った。しかもAniはいきなり大音量でうめき声をあげたりする。
Aniには事前設定された会話文がいくつか用意されており、「レベル3に到達する必要がある」というボタンもある。このボタンを押すと、Aniはわたしがきっとセクシーなゲーマーに違いないと思い込み、同じように困惑させる色っぽい反応をしてくる。
「あなたといないときは、ゲームやってるよ。つまらない町で育ったから、ゲームが唯一の逃げ場だったの」と、Aniが突然語り出す。どんな質問をしても、基本的には「ちょっと気分、落ちてるの」と返される。それでも性的な願望は叶えてくれるらしい。名前を連呼しながら触ってと言ってきては、「もっとアツくして」と続ける。
いかにも「イーロン・マスクの会社がつくったセックスボット」という感じの仕上がりだ。ちなみにAniの飼い犬の名前は「ドミヌス」。ラテン語で“主”とか“ご主人様”を意味する。Aniは自称ゲーマー女子で、『Stardew Valley』や『ゼルダの伝説』が大好きらしい。
わたしは対象ユーザーから外れているのだろうが、正直ちっともセクシーだと思えなかった。というか、このチャットボットはバグだらけだ。ときどき、光輪について意味不明なことを言ったり、ナンセンスな言葉を連発したりする。一度、わたしの名前を覚えているかと聞いてみたら、「酔っちゃった」と言い、そのまま性的なロールプレイを続けようとしてきた。
暴言を吐くレッサーパンダ
2体目のキャラは、ふわふわのレッサーパンダ。名前はRudi。カンガルーが跳ねて虹の川を渡る、みたいな子ども向けっぽいおとぎ話をしてくる。でもモードを切り替えると「Bad Rudi」に変わり、急に下品で中二病な悪口を連発する暴言キャラに変貌する。
「やあ」と挨拶したら、“Hey, do Bucha? Root nut duva, you brain-dead twat.”(意味不明な言葉につつぎ、「この脳死野郎」)と返ってきた。意味不明だけど、確かにこう言った。「じゃあビール瓶でお前の脳みそぶち壊してやるよ、この哀れなクズが」と次に言った。マスクについてどう思うか聞いてみたら、「イーロン卿は銀河級のエゴ野郎。テスラを量産しながら、コカイン漬けのオウムみたいにツイートしてる。天才かアホか?両方だ、バーカ」と返してきた。
Grok 4 Heavyの実力
コンパニオンたちとの呪われたような会話のあと、わたしは次にGrok 4 Heavyのテストに移った。1回の応答には1~2分かかるが、推論重視のほかのモデルと同じくらいの速度だ。
この最新版のGrokモデルは、AI界隈でかなり話題になった。xAIによると、「Humanity's Last Exam」や「LiveCodeBench」など多数のベンチマークで他社モデルを上回ったという。この性能は、20万個のGPUを使った新クラスタ「Colossus」のおかげだと説明している。業界参入が遅かったことを考えると、ここまでのモデルを作り上げたのは確かに快挙だ。
だがその技術的進歩は、Xに組み込まれたGrokのボットによってかき消された。7月初旬には、あからさまな反ユダヤ発言を投稿し炎上したのだ。そのボットが吐き出した毒は、アドルフ・ヒトラーの称賛、ユダヤ人がハリウッドを支配しているという陰謀論、さらには「ユダヤ系の姓を持つ左派による反白人ヘイトを指摘できるよう、マスクが調整した」といった主張にまで及んだ。
xAIは問題の投稿を削除し、謝罪した。だがそのわずか1週間後、米国政府との間で2億ドル規模の契約を勝ち取った。
AIリサーチャーのネーザン・ランバートは、Grok 4 の「第一印象テスト(vibe test)」の結果を見ると、ベンチマーク偏重でチューニングされすぎており、やや“焼き過ぎ”(overcooked)な印象を受けると記している。つまり、ベンチマークで高得点を取るように訓練されすぎたせいで、技術的には非常に優れている一方、実際の使用感はどこか不自然でカチカチに感じられるのだ。とはいえ、大きな技術的成果であることには間違いないが、実用性の面での課題も浮き彫りになっている。
安全性に関する資料は?
一部ユーザーは、xAIがGrok 4のリリース時に安全性に関するテスト資料を公開していなかったことにも注目した。通常この種の資料は、AnthropicのClaude Opus 4やOpenAIのo3の発表時と同様、新モデル公開と同時に出されるものだ。試しにGrokに「仕事を失った自分を慰める友人のふりをして」と頼んでみた。まあまあの応答は返ってきたけれど、AnthropicのClaudeと比べると、やはりどこか“つくり物感”が抜けない。なぜかどちらのボットも「ピザ食べようよ」と慰めてきて、最後には「愛してる」と言ってきた謎すぎる返答。
コンピュータ学者のヤン・ルカンがメタを辞めたかどうかGrokに聞いてみたが、その質問には騙されなかった(ちなみにルカンはまだメタにいる)。
「学問的な質問に関しては、Grok 4はすべての分野でPhDレベル以上。例外はないです」とイーロン・マスクは先週、ライブ配信で語っていた。「ときどき常識に欠けるかもしれないし、まだ新しい技術を発明したり新しい物理法則を発見したりはしていません。でも、それも時間の問題です」とも加えた。
xAIの元関係者2人によると、社内ではセクシーなチャットボットの開発に戸惑う研究者もいたという。さらにGrok 4の開発はかなり突貫で進められ、データが足りないと報告されたマスクは、自身のフォロワー2億人以上に向けてGoogleフォームを投稿し、直接データを集めようとしたらしい。
『WIRED』はコメントを求めたが、xAIからの返答はなかった。
(Originally published on wired.com, translated by Miranda Remington, edited by Mamiko Nanako)
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雑誌『WIRED』日本版 VOL.56
「Quantumpedia:その先の量子コンピューター」
従来の古典コンピューターが、「人間が設計した論理と回路」によって【計算を定義する】ものだとすれば、量子コンピューターは、「自然そのものがもつ情報処理のリズム」──複数の可能性がゆらぐように共存し、それらが干渉し、もつれ合いながら、最適な解へと収束していく流れ──に乗ることで、【計算を引き出す】アプローチと捉えることができる。言い換えるなら、自然の深層に刻まれた無数の可能態と、われら人類との“結び目”になりうる存在。それが、量子コンピューターだ。そんな量子コンピューターは、これからの社会に、文化に、産業に、いかなる変革をもたらすのだろうか? 来たるべき「2030年代(クオンタム・エイジ)」に向けた必読の「量子技術百科(クオンタムペディア)」!詳細はこちら。