米大統領のドナルド・トランプが、超親トランプ派ネット掲示板「The Donald」での支持を失いつつある。同掲示板のメンバーの一部は、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件の計画に関与した疑いもあり、インターネット上で最もトランプに忠実な拠点のひとつとされてきた。 しかし最近では、ほかのMAGA界隈同様に、多くのユーザーが我慢の限界に達しているようだ。
あるユーザーは、「今回の件では、本当にトランプに失望しました。許しがたいことです」と、7月14日未明(米国時間)に投稿。トランプ政権によるジェフリー・エプスタイン事件の対応に対する怒りと憤りが吹き出している実態を浮き彫りにした。
トランプとその側近たちは、政権に復帰したら、19年に性的人身売買の容疑で勾留中に死亡したジェフリー・エプスタインの死の真相や、関与したとされる「顧客リスト」などの衝撃的な情報を明らかにすると、共和党支持層に約束していた。
しかし7日、連邦捜査局(FBI)と司法省は、エプスタインの死因は自殺で、隠蔽の証拠は見つからなかったとする調査結果を記したメモを公表した。さらに同メモには、今年2月に当時の司法長官だったパム・ボンディが、机の上にあると主張していた「顧客リスト」が、実際には存在しなかったことも明記されていた。
この発表に対し、草の根の支持者や右派インフルエンサー、保守的なメディア関係者から、即座に怒りの声が噴出。問題はエプスタイン個人にとどまらず、同氏を巡る陰謀論の核心とされていた、児童虐待組織の存在を政府が否定したことも反発を招いた一因となった。
さらに『WIRED』が、エプスタインの遺体発見前夜に、収監施設の独房近くの監視カメラ映像が「加工されていた可能性がある」と報じたことで、不信感は一層強まった。
トランプは、こうした批判の火消しに追われ、12日には自身のSNSであるTruth Socialに次のような投稿をして、ボンディを擁護した。「『わがままな連中』が政権にケチをつけている。死んでも生きている男、ジェフリー・エプスタインなんかのために」
沈黙を破る支持者たち
エプスタインを巡る騒動は、トランプ界隈でくすぶる不満の一端にすぎない。元FOXニュース司会者で現在はXで配信しているタッカー・カールソンは、イランへの空爆に不信感を募らせ、トランプに影響力を持つことで知られる著名な陰謀論者のローラ・ルーマーは、大統領によるカタールからの高級機受領を問題視する。
親トランプ派のポッドキャスターであるベン・シャピロは関税政策に反発し、大人気ポッドキャスターのジョー・ローガンは、非犯罪者の移民労働者を標的にした移民税関捜査局(ICE)の強制捜査を批判している。さらに最近まで連邦政府の特別政府職員を務めていたイーロン・マスクは、トランプ政権が推進する通称「大きくて美しい法案(One Big Beautiful Bill)」を痛烈に非難している。
これまでのところ、著名な右派メディア関係者の多くは、トランプ本人への直接的な批判は避け、怒りの矛先をボンディや政権内のほかの関係者に向けている。しかし、トランプに裏切られたと感じる支持層の間で憤りがさらに高まれば、こうした姿勢にも変化が生じる可能性がある。
「さまざまな方向から次々と批判が湧き上がって、それが積み重なることで致命的な打撃を受ける展開にもなりかねません」と、進歩系メディア監視団体のMedia Matters for Americaでシニア・フェローを務めるマシュー・ガーツは『WIRED』に語った。「そうなれば、MAGA運動内で影響力のある人物たちの間でも、(トランプへの)支持を継続するかどうかの判断に変化が生じる可能性もあります」
積もる不満、揺らぐ忠誠
現トランプ政権がすべての支持者の期待に応えられない可能性を示す最初の兆候のひとつが、今年1月、テキサス州で致死的なはしかの集団感染が発生した際に現れた。厚生長官、ロバート・F・ケネディ・ジュニアが、MMR(はしか・おたふく風邪・風疹)ワクチンの接種を支持したのだ。
ケネディは就任当初こそ、代替医療の支持層から“反ワクチン派の英雄”として称賛されていたが、ワクチン推奨の発言をして、同じ支持層から強い反発を招いた。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)のワクチンに批判的な立場で知られる医師のメアリー・タリー・ボウデンは4月、X上で次のような投稿をし、多くの怒りの声を代弁した。「申し訳ないですが、わたしたちが投票したのは、医療体制に疑問を投げかける姿勢に対してであって、その言いなりになることではありません」
一方、今月テキサス州で洪水が発生した後には、政府が極秘裏に気象を操作し、国民をコントロールしていると信じる陰謀論者たちが、トランプに対して批判的な態度を取り始めた。
環境保護庁(EPA)の長官であるリー・ゼルディンは、地球工学に関して同庁が「知るすべて」を公表すると語る動画を公開。その後、「ケムトレイル(chemtrails)」陰謀説を否定する内容を含むウェブページが公開されると、一部のトランプ支持者の間で不満が広がった。
ケムトレイル陰謀論とは、航空機の後方に見える直線状の飛行機雲が、実は政府が操る航空機によって散布された有毒化学物質の雲で、国民を感染させる目的があるという、事実に基づかない主張のことである。
「空で繰り広げられている気象戦争に対する人々の認識が急速に高まっているので、ゼルディンは哀れにも火消しに走っているのです」と、地球工学に関する陰謀論まじりのブログを書いているデーン・ウィギントンは、Xに投稿した。
トランプ本人を批判する者たち
トランプにとっての支持基盤とされてきた保守系プラットフォーム上でさえ、批判の声が上がり始めている。大統領が掲げた超強硬な移民政策や再移住(remigration)といった極右的な方針は、過激な右派層の期待に応える動きと見られていた。しかし一部では、強制送還の実行があまりにも遅すぎるとの懸念の声が噴出している。
「大量強制送還なんて嘘だ」と、白人至上主義者として知られるニック・フエンテスはXに投稿。さらに、「もう“悪い側近”や周囲のせいにはできない。こんなことは10年以上も続いている。そもそも人事を決めたのは誰だ?もはや言い訳は通用しない」とも書き加えた。
こうした不満は、極右系のオンライン・コミュニティの間で広がりつつある。「トランプはすぐに実行すべきだ。彼がやると約束したから選んだ。とにかくやれ」と、The Donaldのユーザーのひとりは書き込んでいる。親トランプ派のインフルエンサーで、ネット上ではガンサー・イーグルマンとして知られるデビッド・フリーマンは今月初め、140万人のフォロワーに向けて、「大量強制送還はいつ始まるのか?」と、Xに投稿している。
インフルエンサーのなかには、ついにトランプ本人を名指しで批判し始めている者も現れた。
昨年の大統領選挙前にトランプにインタビューしたコメディアンで人気ポッドキャスターのアンドリュー・シュルツは、「トランプは、わたしが投票した理由とは真逆のことばかりしています」と、自身の番組『Flagrant』の最新エピソードで語った。
Media Matters for Americaのガーツは、「トランプにとってのリスクは、(右派系メディアの)有料会員や、YouTubeやポッドキャストの熱心な視聴者といった草の根の支持者たちが、インフルエンサー層に別の方向性を求め始めることでしょう」と指摘し、次のように続けた。
「そうなれば、インフルエンサーたちも、右派政治メディア全体の構造変化に適応せざるを得なくなるでしょう。現時点ではまだその段階には至っていませんが、もしそうした転換で成功する人が現れれば、ほかの発信者たちも追随して、一気に広がる可能性があるでしょう」
(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai edited by Mamiko Nakano)
※『WIRED』によるドナルド・トランプの関連記事はこちら。
雑誌『WIRED』日本版 VOL.56
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