OpenAIが、テスラの元ソフトウェアエンジニアリング担当副社長であるデビッド・ラウを含む、ライバル企業から4人の著名エンジニアを採用していたことが『WIRED』の取材で明らかになった。OpenAIのスケーリングチームに加わることになっており、この人事は共同創業者でありスケーリングチームを率いるグレッグ・ブロックマンが7月8日に社内Slackで共有した。
ラウのほかに、xAIおよびXの元インフラエンジニアリング部門トップであるウダイ・ルダラジュ、xAIのインフラエンジニアであるマイク・ダルトン、メタ・プラットフォームズの人工知能(AI)研究者アンジェラ・ファンが採用された。ダルトンとルダラジュは過去にロビンフッドでも勤務していた経歴がある。xAIでは、このふたりは20万基以上のGPUを搭載した巨大スーパーコンピューター「Colossus(コロッサス)」の構築に携わっていた。
「今回、新たにスケーリングチームに加わったメンバーを歓迎できることをうれしく思います」と、OpenAIの広報担当であるハンナ・ウォンは話す。「わたしたちは、世界最高レベルのインフラ、研究、プロダクトチームを構築・統合し続けることで、AIの恩恵を何億人もの人々に届けるというミッションを加速させていきます」
OpenAIのスケーリングチームとは
OpenAIのスケーリングチームは、最新の基盤モデルを研究者が訓練できるようにするための、バックエンドのハードウェアやソフトウェア、データセンターを担っている。これには、AIインフラの構築に特化した新たなジョイントベンチャー「Stargate」も含まれる。ChatGPTのような外向けのプロダクトほど派手ではないが、この取り組みはOpenAIが汎用人工知能(AGI)の実現を目指し、ライバルより先んじるうえで極めて重要な仕事である。
「インフラは研究と現実が交差する地点であり、OpenAIはすでにその領域で成果を示しています」と、ルダラジュは『WIRED』への声明で述べた。「とりわけStargateは、わたしが挑戦するのが好きな野心的かつシステム全体を見据えた課題にぴったりの、ムーンショット型インフラです」
「安全で適切に整合された人工汎用知能の進展を加速させることこそが、わたしのキャリアの次の章において最も価値ある使命であると、強く確信しています」と、ラウは別の声明で述べている。
AI業界の人材争奪戦
この新たな人材獲得は、AI業界における人材とリソースの争奪戦が激化するなかでの動きだ。メタの最高経営責任者(CEO)であるマーク・ザッカーバーグは、研究者に対して異例の高額報酬や大量の計算リソースを提供することで、これまでにOpenAIから少なくとも7人を引き抜いている。この動きを受けて、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンは最近、社内で研究者向けの報酬体系を見直す方針を示していた。
ザッカーバーグはまた、OpenAIの元最高技術責任者(CTO)であるミラ・ムラティと共同創業者のジョン・シュルマンが率いるスタートアップ「Thinking Machines Lab」の従業員も複数ターゲットにしていることが、『WIRED』の取材で明らかになっている。
テスラやxAI、Xといった企業から複数の著名な人材を引き抜いたことで、アルトマンとイーロン・マスクのあいだの緊張がさらに高まる可能性もある。マスクは2015年にOpenAIを共同設立したが、3年後に経営方針やリーダーシップを巡って離脱している。現在、マスクはOpenAIに対して訴訟を起こしており、同社が人類の利益のためにAIを開発するという本来の使命を放棄したと非難している。OpenAIは19年に非営利から営利構造へと転換し、その後マイクロソフトから数十億ドル規模の投資を受けている。これに対して、OpenAI側もマスクを不公正な競争と業務妨害で訴えている。
超知能への期待
22年末にOpenAIがChatGPTを一般公開して以降、AI業界における人材争奪戦は激化している。最近では、研究者や幹部のあいだで、あらゆるタスクにおいて人間の知能を超える「人工超知能(ASI)」の実現が近いとの見方も広がっており、企業各社は通常の採用のあり方そのものを見直しつつある。
ChatGPTの登場によって、AIの進化にはスケーリング拡張性が不可欠であることも明らかになった。現在のAIモデルは、より多くのデータと計算資源を投入することで能力を高め、しばしば予想外の新しいスキルを発揮する。
大手AI企業はまた、自社プロダクトの新たな市場開拓にも注力している。『WIRED』は今週、OpenAIとマイクロソフトが全米の教育関係者に向けてAIトレーニングを提供する計画を進めていると報じた。
(Originally published on wired.com, translated by Eimi Yamamitsu, edited by Mamiko Nakano)
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雑誌『WIRED』日本版 VOL.56
「Quantumpedia:その先の量子コンピューター」
従来の古典コンピューターが、「人間が設計した論理と回路」によって【計算を定義する】ものだとすれば、量子コンピューターは、「自然そのものがもつ情報処理のリズム」──複数の可能性がゆらぐように共存し、それらが干渉し、もつれ合いながら、最適な解へと収束していく流れ──に乗ることで、【計算を引き出す】アプローチと捉えることができる。言い換えるなら、自然の深層に刻まれた無数の可能態と、われら人類との“結び目”になりうる存在。それが、量子コンピューターだ。そんな量子コンピューターは、これからの社会に、文化に、産業に、いかなる変革をもたらすのだろうか? 来たるべき「2030年代(クオンタム・エイジ)」に向けた必読の「量子技術百科(クオンタムペディア)」!詳細はこちら。