2024年の米大統領選は、ドナルド・トランプ前大統領がカマラ・ハリス副大統領を破って再選を決めた。6日未明(米国時間)に勝利演説を終えるころ、トランプ次期大統領は総合格闘技団体であるUFC(Ultimate Fighting Championship)のCEO、ダナ・ホワイトに壇上を譲った。ホワイトは、今回まで政界の主流派にはあまりなじみのなかった人々の名前を挙げ、謝意を示した。
「ネルク・ボーイズ、エイディン・ロス、セオ・ボン、バッシン・ウィズ・ザ・ボーイズ、そして最後になりましたが、強大な影響力を持つジョー・ローガンに感謝の意を表したい」。これらはすべて、影響力のあるインフルエンサー、配信者、ポッドキャスト司会者の名前だ。
2024年選挙戦の終盤において、トランプは大規模なポッドキャスト・インタビューツアーを展開した。そして、彼らの主なオーディエンス層である若い男性の前に姿を現した。トランプ陣営は、投票率が中程度から低いとみられた男性有権者層での得票率を上げることが、最も有望な戦略のひとつだと考えていた。2024年の米大統領選は、ドナルド・トランプ前大統領がカマラ・ハリス副大統領を破って再選を決めた。6日未明(米国時間)に勝利演説を終えるころ、トランプ次期大統領は総合格闘技団体であるUFC(Ultimate Fighting Championship)のCEO、ダナ・ホワイトに壇上を譲った。ホワイトは、今回まで政界の主流派にはあまりなじみのなかった人々の名前を挙げ、謝意を示した。
「ネルク・ボーイズ、エイディン・ロス、セオ・ボン、バッシン・ウィズ・ザ・ボーイズ、そして最後になりましたが、強大な影響力を持つジョー・ローガンに感謝の意を表したい」。これらはすべて、影響力のあるインフルエンサー、配信者、ポッドキャスト司会者の名前だ。
2024年選挙戦の終盤において、トランプは大規模なポッドキャスト・インタビューツアーを展開した。そして、彼らの主なオーディエンス層である若い男性の前に姿を現した。トランプ陣営は、投票率が中程度から低いとみられた男性有権者層での得票率を上げることが、最も有望な戦略のひとつだと考えていた。そのため、選挙陣営はトランプをテレビカメラの前から離し、ポッドキャストのマイクの前に立たせた。オンライン選挙運動の新たな型を生み出したのだ。
主流メディアの言葉は男性に響かない
「メディア企業や主流メディアの多くは、もはや男性との対話方法を理解していません。これは重大な問題だと考えています」と、トランプ陣営のアドバイザーであるアレックス・ブルースウィッツは『WIRED』に語った。「主流メディアから発信されるメッセージは、一般的な米国人男性の心に響かなくなっています。そのため、多くの人々が従来とは異なる方法でニュースを得るようになっているのです」
政治団体や選挙陣営は、4年以上にわたってオンラインでのメッセージ発信を強化するため、インフルエンサーの広範なネットワーク構築に多大な時間と資金を投資してきた。バイデン大統領はインフルエンサーたちをホワイトハウスに招いて特別な政策説明会を開催し、ハリス副大統領が引き継ぐまで選挙遊説にも同行していた。
ハリスが民主党の大統領候補となった後、彼女の選挙運動には新たな寄付が殺到した。CBSニュースによると、10月までに10億ドルを超える新規の資金調達を達成したという。この巨額の資金流入により、特にデジタル広告と従来型広告において、ハリス陣営は優位に立った。『New York Times』によると、討論会が行われた週だけでも、FacebookとInstagramの広告費でハリス陣営はトランプ陣営の20倍を支出した。
この差を埋めるため、トランプ陣営は従来よりも少ない広告費で済むインフルエンサーコンテンツを大量に展開することを決定した。「わたしたちはトランプ大統領の露出を最大限に高める創造的な方法を見出す必要があり、これは楽しみながらそれを実現できる方法でした」とブルースウィッツは語っている。
トランプは保守系メディアでは優勢を保っていたものの、インフルエンサー施策はほぼ皆無で、選挙運動において不利な立場にあった。しかし、この1年の間に、選挙陣営と共和党の全国委員会は、インフルエンサーやコンテンツクリエイターを選挙活動に組み込み始めた。インフルエンサーたちは予備選挙の討論会に招待され、7月の共和党全国大会には数十人が参加した。
これらのクリエイターの多くは、人種差別的・女性蔑視的なコンテンツを扱う「マノスフィア(manosphere)」と呼ばれる男性コミュニティに属している。これらのイベントに参加したほかのトランプ支持のインフルエンサーたちは、ハリス、移民問題、選挙不正などに関する陰謀論を広めていた。トランプはこれを歓迎する様子で、投稿を共有し、オンライン上での注目を享受していた。
「伝統的なメディアへの不信感がこれまでにない水準にまで達したいま、人々は人(の言葉)を信頼しています。インフルエンサーもまた人なのです」と、共和党全国委員会の青年諮問委員会で、共同議長を務めるCJピアソンは語る。「人々はインフルエンサーに、何に情熱を注ぐべきか、何に怒りを感じるべきか、何に行動を起こすべきかを求めており、それこそがわたしたちがこの選挙運動を通じて実現したかったことなのです」
玄関先でも画面上でもつながりをもてる
戸別訪問作戦などの足で稼ぐ活動において、トランプ陣営はハリス陣営に比べて不利な立場にあった。トランプ陣営は戸別訪問活動の大部分を、イーロン・マスクが支援する政治活動委員会であるアメリカPACと、保守系団体のターニング・ポイント・アクション(TPA)に委託していた。両組織とも戸別訪問用アプリの不具合に悩まされ、『WIRED』の報道によると、ミシガン州とアリゾナ州でのマスクのPAC活動員たちは、過酷な労働条件と、「達成不可能」なレベルの目標数値をもたされたという。ミシガン州などの激戦州の共和党員たちは、投票促進活動が不十分であると批判し、それが選挙結果に影響を及ぼすことを懸念していた。
しかし、対面での選挙活動は結果的に重要ではなかったかもしれない。ブルースウィッツは、選挙運動のデジタル展開こそが勝利の決め手となった可能性があると考えている。「すべては関係し合いながら、機能しています」と、ブルースウィッツは選挙運動のオンラインと実地での活動について説明する。「わたしたちは有権者と、玄関先でも画面上でも、直接的なつながりをもっていたのです」
左派系の人気Twitchストリーマーであるハサン・ピカーは、トランプのポッドキャスト出演の効果は、出演という事実そのものではなく、視聴者層にとって“トランプが体現していたもの”が響いたのだと考えている。「彼らのなかには、わたしの友人もいれば、そうでない人もいます」とピカーは語る。「ポッドキャスト自体がトランプの勢いや人気を生み出したわけではありません。確かにアウトリーチとしての役割は果たしましたが、全体として見れば、彼のメッセージがこれらの人々の心に響いており、ポッドキャストはそれを届けるための手段に過ぎなかったのです」
共和党のデジタル戦略家であるエリック・ウィルソンはこれらのオンラインアウトリーチキャンペーンについて、政策について有権者を説得するよりも、投票への動員において効果的だったと『WIRED』の取材で語った。「多くの人々がインフルエンサーマーケティング・キャンペーンの役割を誤解しています」と彼は言う。「重要なのは、人々が投票に行くかどうかということです。そして昨夜の結果が示しているのは、特にこれらのポッドキャストやインフルエンサーがターゲットとしていた若い男性層において、劇的にトランプ支持へと傾いたということです」
ウィルソンによれば、次なる課題は、より地域に密着した選挙戦でインフルエンサーマーケティングを実施することだという。「全国規模の選挙運動では理にかなっていますが、州レベルの選挙運動では実行が難しくなります。というのも、対象となるオーディエンスがどんどん狭くなっていくからです」とウィルソンは説明する。 「わたしたちのポッドキャストやインフルエンサーとの交流を通じて得られたパブリシティの価値は、金額では表せないものでした」とブルースウィッツは語る。「ジェイク・ポールであれ誰であれ、わたしたちはトランプ大統領の個性を活かして、現代史に残る最もバイラルな瞬間をいくつも生み出すことができたのです」
(Originally published on wired.com, translated by Mamiko Nakano)
※『WIRED』による政治の関連記事はこちら。
雑誌『WIRED』日本版 VOL.54
「The Regenerative City」
今後、都市への人口集中はますます進み、2050年には、世界人口の約70%が都市で暮らしていると予想されている。「都市の未来」を考えることは、つまり「わたしたちの暮らしの未来」を考えることと同義なのだ。だからこそ、都市が直面する課題──気候変動に伴う災害の激甚化や文化の喪失、貧困や格差──に「いまこそ」向き合う必要がある。そして、課題に立ち向かうために重要なのが、自然本来の生成力を生かして都市を再生する「リジェネラティブ」 の視点だと『WIRED』日本版は考える。「100年に一度」とも称される大規模再開発が進む東京で、次代の「リジェネラティブ・シティ」の姿を描き出す、総力特集! 詳細はこちら。
主流メディアの言葉は男性に響かない
「メディア企業や主流メディアの多くは、もはや男性との対話方法を理解していません。これは重大な問題だと考えています」と、トランプ陣営のアドバイザーであるアレックス・ブルースウィッツは『WIRED』に語った。「主流メディアから発信されるメッセージは、一般的な米国人男性の心に響かなくなっています。そのため、多くの人々が従来とは異なる方法でニュースを得るようになっているのです」
政治団体や選挙陣営は、4年以上にわたってオンラインでのメッセージ発信を強化するため、インフルエンサーの広範なネットワーク構築に多大な時間と資金を投資してきた。バイデン大統領はインフルエンサーたちをホワイトハウスに招いて特別な政策説明会を開催し、ハリス副大統領が引き継ぐまで選挙遊説にも同行していた。
ハリスが民主党の大統領候補となった後、彼女の選挙運動には新たな寄付が殺到した。CBSニュースによると、10月までに10億ドルを超える新規の資金調達を達成したという。この巨額の資金流入により、特にデジタル広告と従来型広告において、ハリス陣営は優位に立った。『New York Times』によると、討論会が行われた週だけでも、FacebookとInstagramの広告費でハリス陣営はトランプ陣営の20倍を支出した。
この差を埋めるため、トランプ陣営は従来よりも少ない広告費で済むインフルエンサーコンテンツを大量に展開することを決定した。「わたしたちはトランプ大統領の露出を最大限に高める創造的な方法を見出す必要があり、これは楽しみながらそれを実現できる方法でした」とブルースウィッツは語っている。
トランプは保守系メディアでは優勢を保っていたものの、インフルエンサー施策はほぼ皆無で、選挙運動において不利な立場にあった。しかし、この1年の間に、選挙陣営と共和党の全国委員会は、インフルエンサーやコンテンツクリエイターを選挙活動に組み込み始めた。インフルエンサーたちは予備選挙の討論会に招待され、7月の共和党全国大会には数十人が参加した。
これらのクリエイターの多くは、人種差別的・女性蔑視的なコンテンツを扱う「マノスフィア(manosphere)」と呼ばれる男性コミュニティに属している。これらのイベントに参加したほかのトランプ支持のインフルエンサーたちは、ハリス、移民問題、選挙不正などに関する陰謀論を広めていた。トランプはこれを歓迎する様子で、投稿を共有し、オンライン上での注目を享受していた。
「伝統的なメディアへの不信感がこれまでにない水準にまで達したいま、人々は人(の言葉)を信頼しています。インフルエンサーもまた人なのです」と、共和党全国委員会の青年諮問委員会で、共同議長を務めるCJピアソンは語る。「人々はインフルエンサーに、何に情熱を注ぐべきか、何に怒りを感じるべきか、何に行動を起こすべきかを求めており、それこそがわたしたちがこの選挙運動を通じて実現したかったことなのです」
玄関先でも画面上でもつながりをもてる
戸別訪問作戦などの足で稼ぐ活動において、トランプ陣営はハリス陣営に比べて不利な立場にあった。トランプ陣営は戸別訪問活動の大部分を、イーロン・マスクが支援する政治活動委員会であるアメリカPACと、保守系団体のターニング・ポイント・アクション(TPA)に委託していた。両組織とも戸別訪問用アプリの不具合に悩まされ、『WIRED』の報道によると、ミシガン州とアリゾナ州でのマスクのPAC活動員たちは、過酷な労働条件と、「達成不可能」なレベルの目標数値をもたされたという。ミシガン州などの激戦州の共和党員たちは、投票促進活動が不十分であると批判し、それが選挙結果に影響を及ぼすことを懸念していた。
しかし、対面での選挙活動は結果的に重要ではなかったかもしれない。ブルースウィッツは、選挙運動のデジタル展開こそが勝利の決め手となった可能性があると考えている。「すべては関係し合いながら、機能しています」と、ブルースウィッツは選挙運動のオンラインと実地での活動について説明する。「わたしたちは有権者と、玄関先でも画面上でも、直接的なつながりをもっていたのです」
左派系の人気Twitchストリーマーであるハサン・ピカーは、トランプのポッドキャスト出演の効果は、出演した事実だけではなく、オーディエンスにとって”トランプが象徴していたもの”が響いたのだと考えている。「彼らのなかには、わたしの友人もいれば、そうでない人もいます」とピカーは語る。「ポッドキャスト自体がトランプの勢いや人気を生み出したわけではありません。確かにアウトリーチとしての役割は果たしましたが、全体として見れば、彼のメッセージがこれらの人々の心に響いており、ポッドキャストはそれを届けるための手段に過ぎなかったのです」
共和党のデジタル戦略家であるエリック・ウィルソンはこれらのオンラインアウトリーチキャンペーンについて、政策について有権者を説得するよりも、投票への動員において効果的だったと『WIRED』の取材で語った。「多くの人々がインフルエンサーマーケティング・キャンペーンの役割を誤解しています」と彼は言う。「重要なのは、人々が投票に行くかどうかということです。そして昨夜の結果が示しているのは、特にこれらのポッドキャストやインフルエンサーがターゲットとしていた若い男性層において、劇的にトランプ支持へと傾いたということです」
ウィルソンによれば、次なる課題は、より地域に密着した選挙戦でインフルエンサーマーケティングを実施することだという。「全国規模の選挙運動では理にかなっていますが、州レベルの選挙運動では実行が難しくなります。というのも、対象となるオーディエンスがどんどん狭くなっていくからです」とウィルソンは説明する。 「わたしたちのポッドキャストやインフルエンサーとの交流を通じて得られたパブリシティの価値は、金額では表せないものでした」とブルースウィッツは語る。「ジェイク・ポールであれ誰であれ、わたしたちはトランプ大統領の個性を活かして、現代史に残る最もバイラルな瞬間をいくつも生み出すことができたのです」
(Originally published on wired.com, translated by Mamiko Nakano)
※『WIRED』による政治の関連記事はこちら。
雑誌『WIRED』日本版 VOL.54
「The Regenerative City」
今後、都市への人口集中はますます進み、2050年には、世界人口の約70%が都市で暮らしていると予想されている。「都市の未来」を考えることは、つまり「わたしたちの暮らしの未来」を考えることと同義なのだ。だからこそ、都市が直面する課題──気候変動に伴う災害の激甚化や文化の喪失、貧困や格差──に「いまこそ」向き合う必要がある。そして、課題に立ち向かうために重要なのが、自然本来の生成力を生かして都市を再生する「リジェネラティブ」 の視点だと『WIRED』日本版は考える。「100年に一度」とも称される大規模再開発が進む東京で、次代の「リジェネラティブ・シティ」の姿を描き出す、総力特集! 詳細はこちら。